ピアニストが拘束された

みんなが、私に疑念と恐怖の混じった視線を向けてくる。

結論は出た。私は、犯人として選ばれてしまった。

ピアニスト「ちがう、私は……」

言い訳の言葉を並べ立てようとして、我に返る。頭に上った血が、一気に逆流していく

感覚と共に視界が歪み、足から力が抜けて、思わずピアノ席に腰を掛けた。

ピアニスト「ごめんなさい……」

罪悪感で圧し潰された肺から、贖罪の言葉が漏れた。

その瞬間、みんなの空気がざわつくのを感じた。

ビオリスト「どうして……マネージャーさんは、君のこと……」

ビオリストに教えられなくたって、私が一番わかっている。

あの子は、いつだって私の味方でいてくれた。でも、だったら私は、どうして……。

あの子が、私より上手にピアノを演奏して見せたから?

それとも、私達の夢を裏切るようなことをして、悪事を働いたから?

いや、もしかして私は、心の底であの子のことを嫌っていたのだろうか?

わからない、わからない、わからない。

ヴァイオリニスト「何を被害者ぶっているんだ……おい」

いつの間にか、近くまで寄ってきていたヴァイオリニストに胸倉をつかみ上げられた。

彼の瞳には、計り知れない憤怒の炎が燃えさかっていた。強引に椅子から立たされた私をかばうようにして、コントラベーシストが割って入る。

コントラベーシスト「まあまあ、落ちつけって! こんなことで言い争ってる場合か? 伝説の楽器を探さなくちゃだろ?」

ヴァイオリニスト「こんなこと? 人が殺されてるんだぞ……」

コントラベーシスト「だから、伝説の楽器があれば、マネージャーを生き返らせることだってできるだろ!」

伝説の楽器? そんなもの本当に存在するのだろうか?

マネージャーが持っていた『血まみれの楽譜』を見た時、私はまるで意識が狂わされるような感覚に陥った。でも、それが私の醜い嫉妬心と、最愛のあの子を殺したことに対する言い訳だとしたら?

チェリスト「あの……通報……しないんですか?」

周りの状況を確認しながら、チェリストがスマートフォンを取り出す。

チェリストと視線があった私は、軽く頷いた。意図を察したらしく、彼女は画面をタップし始めた。

しばらくすれば、警察が来るのだろう。私は逮捕されて、ゴーストプレイヤーは解散になるだろう。マネージャーと誓った夢は果たせなくなる。すべて私のせいだ。

そんな自己嫌悪に浸ろうとした時だった。

チェリスト「び、ビオリストさん!? 何を⁉」

チェリストの言葉の後、不意に誰かが私の髪を強く引っ張った。

痛みから悲鳴をあげる私を無視して、彼――ビオリストは、私を引きずり倒す。

反射的に、瞼をきつく閉じてしまう。しばらくそうしていると、小さな水滴が私の頬を叩いた。

ゆっくり目を開けると、馬乗りになって私をにらみつけるマネージャーの姿があった。

ピアニスト「……え?」

時が止まってしまったように、落ちてくる涙まではっきりと見えた。

マネージャーは、いつの間にか両手にナイフを握りこんでいた。

男子の制服を着ていて、チャームポイントだったヘアピンがなかった。

やるせない憤りで強張った頬が、紅色に染まっていた。

マネージャー?「裏切り者……!」

そう叫んだ後、マネージャーは私の顔にナイフを振り下ろした。

最後の瞬間、心に満ちたのは、妙な安心感だった。

でも、こんな奇跡があっていいのだろうか?

あの子を殺した私が、あの子から直接罰を受けることができるなんて。

――

数日後のネットニュースに、センセーショナルな記事が躍った。

「新進気鋭の音楽グループ『ゴーストプレイヤー』。

仲違いから、凄惨な殺し合いか!?」

事件は、山奥の音学校、SOR学園の一室で起こった。

配信サイトから著名になり、若者に人気を博していたクラシック音楽グループ

『ゴーストプレイヤー』のメンバーが殺害されたのだ。

殺された二人は、グループを取り仕切るマネージャーと、グループのエースであり

将来を嘱望(しょくぼう)されていた天才ピアニストで、二人は幼馴染の関係にあったという。

犯人として逮捕されたのは、同グループでビオラを担当していた少年だ。

動機について彼はかたくなに説明を拒んだが、犯行については

「二人とも、僕が殺しました」と認める供述をしている。

事件発生より以前、同グループの様々な悪評が国内音楽界に広まっていたらしい。

マネージャーによる、音楽界有力者に対する脅迫、グループ内メンバーのひとり

コントラベーシストの暴行など、調べれば調べるほどきな臭い話が掘り起こされている。

警察では、ビオリストの犯行についてメンバーへの聞き取りも実施しているが

皆、声をそろえて「ビオリストが言っていることがすべてだ」と答えている様子。

今後、この事件について、SOR学園への責任問題も含めて調査が進められる方針である。

――

「死刑を望みます」という僕の請求は棄却され、判決は無期懲役となった。

SOR学園という著名な音楽高で起きた凄惨な事件。当初はかなりニュースを賑わせたようだが、数年もすれば不自然なほど風化し、今ではネットの片隅を賑わせるのがやっとのようだ。

そう僕に教えてくれたのは、面会室にやってきたヴァイオリニスト君だ。

ヴァイオリニスト「そろそろ教えてくれてもいいだろう」

しばらく、世間の時事や「ゴーストプレイヤー」のみんなの近況について教えてくれた後、ヴァイオリニスト君はおもむろに切り出した。何のことだろう、と問い返すと、彼は目を細めて追求してきた。

ヴァイオリニスト「どうして、自分が二人を殺した、なんて主張したんだ?」

ビオリスト「……それはね」

事件から、もう数年だ。今更、警察もこのことを蒸し返したりしないだろう。

そう思って、僕はヴァイオリニスト君にだけは、本心を打ち明けておこうと思った。

ビオリスト「マネージャーさんなら、ピアニストさんが世間に「殺人犯」扱いされるのは嫌だろうと思ったから」

ヴァイオリニスト「そう思うなら、ピアニストを殺さなければよかった。マネージャーなら崇拝していたピアニストが死ぬことこそ、避けたいと思うだろう」

ビオリスト「そんなことない。ピアニストさんは殺してほしそうな顔をしていたから」

その答えに、ヴァイオリニスト君は「なるほど」と頷いた。

すべては、僕の自己満足だ。死んだマネージャーさんがどう思ってるかなんて、本当のことはわからない。姿形を変えて、彼女になりきることができる僕でも、心の内まで模倣することはできないのだから。ただひとつだけ言えるなら、僕はあの時、ピアニストさんを殺してあげることが、最善だと思ってしまったのだ。

ヴァイオリニスト「じゃあ、ついでにもう一つ質問させてくれ」

ビオリスト「何?」

ヴァイオリニスト「おまえ、一体何者なんだ?」

真剣なヴァイオリニスト君の言葉に、僕は少し悩んでしまった。

「宇宙人だ」とは、言えない。これは僕とマネージャーさんとの間だけの秘密だから。

でも、だとしたら他に、どんな答えがあるのだろう?

ヴァイオリニスト君は、事件の時、僕がドッペルゲンガーの力を使ったのを見たのだから、普通の人間じゃないことはバレている。

でも、なんといえば、納得してくれる?

考えて、考えて、ふと閃いたのは、おためごかしもいいところのキザったらしい答えだった。

僕は思わず口元をニヤけさせてから、芝居がかった態度で、偉そうに言ってのけた。

ビオリスト「僕が本当の、ゴーストプレイヤーだよ」

あとがき

マーダーミステリー、SOR学園「ゴーストプレイヤー」をプレイしていただき、ありがとうございました。

本作は「SOR学園」と呼ばれる大きな設定の中で、マーダーミステリーのシナリオを組み上げた作品です。

前作「無人の放送室」の反省を生かし、シナリオの重厚さを意識して作成してありますが、お楽しみいただけたでしょうか?

「楽しかった」と思っていただけた方には、是非とも前作「無人の放送室」、そしてこれから作成される予定の「SOR学園シリーズ」をプレイしていただければ幸いです。

さて「ゴーストプレイヤー」のシナリオについて、作中では説明できず、またライター個人的にどうしても説明しておきたいと思ったことを書かせていただきます。

今作の犯人である「ピアニスト」。

彼女は「マネージャー」のピアノ演奏に対して「自分よりも上手である」という感想を抱きました。

しかし「ビオリスト」のハンドアウトにもあるように、実際には「ピアニスト」の演奏の方が優れている、という設定となっております。

この差異はどうして生まれたのか……個人的な価値観ではありますが「芸術の価値とは、作者、奏者、演者等への評価によって変動する」と考えており、ピアニストビオリストの認識の違いもここから生まれています。

そもそも、大前提として芸術とは「どのような方向であれ、人の心を動かすもの」であり、時として作者への評価が「感動」そのものに影響を与えることは疑いようがないことだと思います。

例えば、偉大な芸術家が描いた数億円の絵画よりも、子供がお母さんのために描いた似顔絵が、より大きな感動を与えることがあります。

この瞬間、状況を限定すれば、その不格好な似顔絵は、芸術家の名作を超えうる……というのが私の考えです。

翻って「マネージャー」の演奏が、なぜこうまで「ピアニスト」を感動させたのか。

それは「マネージャー」が常に「ピアニスト」を想い、「ピアニスト」のために生きる信奉者であり、「マネージャー」の演奏は常に「ピアニスト」に捧げられたものであるから、というのが理由になります。

お母さんの為に描かれた似顔絵が、お母さんだけには特別な宝物になるように、ピアニストに捧げられた演奏もまた、彼女にだけ特別な感動を与えることに成功した、ということです。

「作者への人格や経歴的な評価が、そのまま作品の完成度に影響する」と言い切る以上、私もライターとして未熟ではありますが、最低限、善良な人間であることを心がけながら、今後も活動を続けていきたいと思います。

今後とも、私達の活動を応援いただければ嬉しいです。

どうぞ、よろしくお願いいたします。