エンディングF
伝説の楽器の儀式を行うが…
マネージャーが――愛しいあの子が、私に伝えたかったことは、
私にして欲しかったことは、私に残してくれた物は……?
ピアニスト「伝説の楽器を手に入れる方法……わかったかもしれない」
小さく漏れ出た言葉に、みんなが一斉に振り返った。
わずかな時間、沈黙がすべてを飲み込んでいた。
窓を激しく叩いているはずの雨音すら、耳に届かず湿った空気中に霧散していく。
ヴァイオリニスト「錯乱しているわけではないだろうな?」
最初に沈黙を破ったのは、ヴァイオリニストだった。
いつも尊大な態度の彼は、こんな時でも尊大であろうと必死になっているようだ。
コントラベーシスト「でかしたよ、ピアニストちゃん! それで、どうやったら手に入るんだ!?」
ヴァイオリニストを押しのけ、大股で歩み寄ってきたコントラベーシストが、私の肩を強くつかむ。
嬉しそうな言葉とは裏腹に、表情は引きつっていた。「自分が伝説の楽器を手に入れたい」という欲望がありありと見て取れる。私が苦悶の声を漏らすと、横からビオリストが私をかばうように割って入ってきた。
ビオリスト「ピアニストさんが見つけたなら、最初にピアニストさんが使うべきだ!」
しばらくにらみ合った後、コントラベーシストは舌打ちして引き下がった。
臨界点に達していた緊張が緩んだのを見て、チェリストが私の顔色をうかがうように上目づかいで口を開く。
チェリスト「あの……ピアニストさんは伝説の楽器で、何を望むんですか?」
ピアニスト「待って……その前に必要なものがある」
ひとりひとりの表情を確かめた後、私は問いかけた。
ピアニスト「血塗れの楽譜を盗んでいったのは、誰?」
返ってきたのは沈黙だった。
ヴァイオリニスト「それは……」
ビオリスト「マネージャーさんが持ってた楽譜だよ。伝説の楽器の鍵になるんだって……」
どうやら、ビオリストは楽譜のことを知っていたようだ。
マネージャーに予め、見せてもらっていたのだろうか?
コントラベーシスト「つまり、それが無いと伝説の楽器が呼び出せないってことか」
ニヤリと口元を歪ませたコントラベーシスト。
その笑みの意味はなんだろう。
チェリスト「ぬ、盗んだの……コントラベーシストさんじゃ……ないですか?」
チェリストが震える声で呟き、コントラベーシストはギョッとした様子でチェリストを見た。
コントラベーシスト「おい、ふざけんなよ! なんで俺なんだよ!」
チェリスト「……だって、今の笑い方……」
コントラベーシストは、なんの躊躇もなくチェリストの胸ぐらを掴みあげた。
私が驚き固まっていると、ヴァイオリニストが駆け寄ってチェリストを庇う。
睨み合うふたり……その時、我関せずと静観していたビオリストが口を開いた。
ビオリスト「誰が盗んだかわかれば……血塗れの楽譜があれば、本当に伝説の楽器が手に入るんだね?」
視線を向けると、感情が消え失せた脳面のような顔がそこにあった。
私は少し躊躇った後、自分の気持ちを正直に吐露する。
ピアニスト「説明できないんだけど、うん。確信がある……」
ビオリスト「わかった……」
ビオリストは頷き、唐突に机を担ぎ上げて扉の前を塞いだ。
その奇妙な行動に、険悪な雰囲気だったヴァイオリニストとコントラベーシストも思わず視線を奪われている。
ヴァイオリニスト「……何のつもりだ?」
ヴァイオリニストが問いかけても、答えは返ってこない。
彼の手には、いつの間にかナイフが握られていた。
ビオリスト「誰が盗んだか答えてくれないなら、酷いことになるよ」
その声は、ゾッとするほどに冷たかった。
――
数日後のネットニュースに、センセーショナルな記事が躍った。
「新進気鋭の音楽グループ『ゴーストプレイヤー』。
嵐の中の殺人! 犯人は同グループメンバーか?」
事件は、山奥の音学校、SOR学園の一室で起こった。
配信サイトから著名になり、若者に人気を博していたクラシック音楽グループ
『ゴーストプレイヤー』のメンバー達が、死体で発見されたのだ。
事件発生当時、現場であったSOR学園は台風の影響で生徒、教員共に
帰宅済みだったらしく、同グループメンバーしかいなかった。
警察では、ひとり行方不明となっているビオリストが犯人と断定してその行方を追っている。
事件発生より以前、同グループの様々な悪評が国内音楽界に広まっていたらしい。
マネージャーによる、音楽界有力者に対する脅迫、グループ内メンバーのひとり
コントラベーシストの暴行など、調べれば調べるほどきな臭い話が掘り起こされている。
同学園の生徒達から「ビオリストはマネージャーに対して恋心を抱いていた」という証言もあるが、現状では恋愛感情のもつれによる事件とは断定できず、裏にはより大きな闇が隠れているのではと語る関係者もいるようだ。
今後、この事件について、SOR学園への責任問題も含めて調査が進められる方針である。
――
あとがき
マーダーミステリー、SOR学園「ゴーストプレイヤー」をプレイしていただき、ありがとうございました。
本作は「SOR学園」と呼ばれる大きな設定の中で、マーダーミステリーのシナリオを組み上げた作品です。
前作「無人の放送室」の反省を生かし、シナリオの重厚さを意識して作成してありますが、お楽しみいただけたでしょうか?
「楽しかった」と思っていただけた方には、是非とも前作「無人の放送室」、そしてこれから作成される予定の「SOR学園シリーズ」をプレイしていただければ幸いです。
さて「ゴーストプレイヤー」のシナリオについて、作中では説明できず、またライター個人的にどうしても説明しておきたいと思ったことを書かせていただきます。
今作の犯人である「ピアニスト」。
彼女は「マネージャー」のピアノ演奏に対して「自分よりも上手である」という感想を抱きました。
しかし「ビオリスト」のハンドアウトにもあるように、実際には「ピアニスト」の演奏の方が優れている、という設定となっております。
この差異はどうして生まれたのか……個人的な価値観ではありますが「芸術の価値とは、作者、奏者、演者等への評価によって変動する」と考えており、ピアニストとビオリストの認識の違いもここから生まれています。
そもそも、大前提として芸術とは「どのような方向であれ、人の心を動かすもの」であり、時として作者への評価が「感動」そのものに影響を与えることは疑いようがないことだと思います。
例えば、偉大な芸術家が描いた数億円の絵画よりも、子供がお母さんのために描いた似顔絵が、より大きな感動を与えることがあります。
この瞬間、状況を限定すれば、その不格好な似顔絵は、芸術家の名作を超えうる……というのが私の考えです。
翻って「マネージャー」の演奏が、なぜこうまで「ピアニスト」を感動させたのか。
それは「マネージャー」が常に「ピアニスト」を想い、「ピアニスト」のために生きる信奉者であり、「マネージャー」の演奏は常に「ピアニスト」に捧げられたものであるから、というのが理由になります。
お母さんの為に描かれた似顔絵が、お母さんだけには特別な宝物になるように、ピアニストに捧げられた演奏もまた、彼女にだけ特別な感動を与えることに成功した、ということです。
「作者への人格や経歴的な評価が、そのまま作品の完成度に影響する」と言い切る以上、私もライターとして未熟ではありますが、最低限、善良な人間であることを心がけながら、今後も活動を続けていきたいと思います。
今後とも、私達の活動を応援いただければ嬉しいです。
どうぞ、よろしくお願いいたします。